ドラマなどでは赤い札を次々と家財道具に貼っていく行為を見かけることがあります。
あれは強制執行で、俗には「差し押さえ」と呼ばれます。
もし借金の返済ができなかったら、身の回りのものはすべて差し押さえられてしまうのでしょうか?
借金返済ができない場合に差し押さえされる物は限られている
借金返済をせずに放置していると、最終的には差し押さえの可能性が出てくることは確かです。
ただし、差し押さえされる物はすべてではなく限られています。
差し押さえされるものは不動産、預金、給料、請負代金など金銭を受け取る権利などです。
身ぐるみ剥がされるわけではなく、衣服やエアコンなど生活必需品とされるものは差し押さえされません。
金銭を受け取る権利も全額ではなく、年金や生活保護は免れます。
物品はあまり差し押さえの対象とはなりませんが、宝石など高価なものであればほぼ確実に差し押さえの対象となります。
真っ先に差し押さえ対象となるのは銀行預金と給料
借金返済の遅滞による債務不履行により、債権者の申立てによって裁判所が差し押さえを実施する場合は、最優先されて差し押さえが行われるのは銀行預金、続いて給料となります。
その理由は、銀行預金と給料は物品ではなくお金なので、換金をする手間がないからです。
銀行預金が差し押さえされる場合は、「口座振替の引き落とし」と同様の処理が行われます。
銀行預金の差押えが実施された後に通帳記載を行うと、通帳の支払金額の欄に「差し押さえ」と「引き落とし金額」が記載されることになります。
銀行預金の差押えがあったとしても、銀行口座は凍結されないので、その後も普通に金銭の出し入れができます。
一方、給料の差押えですが、所得税、住民税、年金や健康保険といった社会保険料を除いた毎月の給料の手取り額に対して差し押さえが行われます。
給料を差押えされると「生活費がなくなるので、どうやって生活すればよいのか?」と思うかもしれませんが、毎月の給料に対して、全額が差し押さえされるわけではありません。
法的に債権の回収が行われる際は、債務者の生存権は守られる様に法律は規定されているわけです。
給料の差押えは、毎月の手取り額の1/4の金額が差し押さえされます。
但し、月額の手取り額が33万円を超えた場合は、超えた金額分は全額差し押さえとなります。
具体的には、月額手取り額が44万円以上あった場合には、33万円だけが手元に残り、それ以外の給料は全て差し押さえされることになります。
給料の差押えが行われると、勤め先に裁判所が発行した「債権差し押さえ命令」の通知書が行くことになります。
勤め先に借金を延滞したことがバレてしまうので、できれば給料の差押えが行われるのは避けたいところです。
返済滞納から差し押さえに至るまで
借金返済ができないからといって、すぐに差し押さえになるわけではありません。
差し押さえとは、金銭の借り入れ先である消費者金融や債権回収業者といった債権者を代行して、裁判所が債務者の財産を差し押さえることで債権を回収する行為のことです。
返済滞納をしたからといって、すぐに裁判所の介入があるわけではないのです。
返済滞納があったら、まず債権者からの督促があります。
電話をかけてきたり、郵送で督促状を送付したりします。
その督促を無視し続けてしまうと、借入先の債権者から「差押予告通知」が送られてきます。
「差押予告通知」には、「遅延損害金を含めた借金の一括返済の要求」と、「要求に応じない場合には差し押さえを実施する」ことが書かれています。
「差押予告通知」に書かれている期限(早ければ1か月後)までに借金の一括返済、もしくは弁護士や司法書士へ債務整理手続きを依頼しなかった場合には、最終的には債権者に返済訴訟を起こされてしまいます。
その結果、債務者本人だけが受け取り可能で送達の事実の証明がある特別送達という郵送方法で裁判所から「支払督促」が送られてきます。
「支払督促」には、裁判所命令で「金銭の支払いをせよ」との記載があり、さらに「期限(2週間以内)までに金銭の支払いに応じなかった場合には差し押さえを実施する」旨が書かれています。
「支払督促」の支払い命令に従わなかった場合には、差し押さえが強制執行されて財産を失ってしまう羽目になります。
差し押さえされない為に行うべきこと
借金返済ができないからといって、放置するのは一番やってはいけないことです。
「差押予告通知」が来た時点で、遅延損害金を含めた借金の全額を一括返済するのが理想です。
ですが、ほとんどの方は、お金がなくて借金返済を遅延しているので、全額の一括返済は無理だと思います。
注)一部の方は、気が動転したり、返済のプレッシャーによる神経衰弱により正常な判断ができず、借金返済の為に別の金融機関から借り入れをするという行動を採ってしまいますが、多重債務となりさらに深みにはまることになるので、借金返済の為に借金をするというのは絶対にしてはいけません。
払えないなら逃げるのではなく、債務整理を行うことが重要です。
「債務整理をしても財産を失ってしまうんでしょ?」と勘違いしている人もいますが、決してそのようなことはありません。
債務整理には、任意整理から自己破産まで、状況に応じて方法がいくつもあります。
任意整理や個人再生、特定調停なら財産を処分する必要はありません。
ただし、いくら債務整理で借金を減らすことができたとしても、その後の返済状況が悪ければまた一緒です。
債務整理のうち特定調停や個人再生は裁判所の介入があり、さらに原則3年以内で整理後の借金を返済していかないといけません。
その約束を破ってしまえば、結果的に強制執行で差し押さえされてしまう羽目になります。
大事なのは払い続けられない借金をしないこと、そして返済困難な状況に陥ったら、なるべく早い段階で債務整理を検討して立て直しを図ることです。
債務整理の依頼は弁護士あるいは司法書士
多額の借金を抱えて返済に困窮している場合に、その借金を整理する債務整理をしたい場合には、一般的に法的な手続きを行うことができる弁護士あるいは司法書士に処理を依頼することになります。
但し、弁護士・司法書士なら誰でも良いかと言えばそうではなく、債務整理を専門的に取り扱っている弁護士・司法書士に借金問題の解決を依頼する必要があります。
弁護士あるいは司法書士に債務整理を依頼した場合には、下記のメリットがあります。
- 債権者と直に減額交渉をする任意整理や裁判所を利用した自己破産などの債務整理方法が明確となるまで、借金返済を一時停止できる。
- 貸金業法の規定により、債権者は債務者に直接、返済請求をすることができなくなるので、債権者からの督促が止まる。
- 給料の差し押さえが行われると、勤め先の会社に借金の遅滞がバレるが、それを回避できる。
- 弁護士や司法書士には守秘義務があるので、借金をしていることを家族にバレるのも避けることができる。
- 借金問題を解決する方向性がはっきりとするので、精神的に安堵することができる。
弁護士や司法書士に債務整理を依頼するタイミングですが、出来るだけ早期が良いです。
遅くなればなるほど遅延損害金が増えてしまい不利な状況となるからです。
裁判所から「支払督促」が来てしまうと、たとえ弁護士や司法書士といえども差し押さえの回避は困難となるので、差し押さえを回避する最終リミットは「支払督促」が来る前段階の「差押予告通知」が来た段階となります。
債権者から「差押予告通知」が送られてきたのなら、迷わずにすぐに弁護士あるいは司法書士に債務整理の処理を依頼しましょう。