任意整理や特定調停でも返済の目途が立たないほどの大きな借金があるなら、個人再生という債務整理方法があります。
個人再生も特定調停と同様に平成13年から施行された新しい制度で、自己破産を免れたい人の措置として役立っています。
個人再生の特徴
個人再生は、多額な債務を大幅圧縮して、3年以内(特別な事情がある場合は5年以内)に返済することで残りの借金が返済免除になる制度です。
借金は5分の1から10分の1(最低返済額100万円)まで減額することができます。
例えば、700万円の借金は、3年の分割払いでは毎月20万円弱の支払いとなりますが、個人再生を行うと借金を1/5の140万円に圧縮することができ、これを3年の分割払いで支払うと毎月4万円弱の支払いで済むようになります。
個人再生の種類
個人再生には、申込者の収入形態の違いによって「小規模個人再生」と「給与所得者再生」の2種類の方法が用意されています。
小規模個人再生は、小売店の店主などの個人事業主やアルバイトの方などが利用できる方法です。
一方、給与所得者再生は、会社員の様な給料を貰っている方が利用できる方法です。
個人再生の利用条件
個人再生を利用するには、利用条件を満たしている必要があります。
個人再生を考えている方は、次の個人再生の利用条件をクリアしているかを確認する必要があります。
- 住宅ローンを除外した借金総額が5千万円以下であること
- 将来的に反復継続した収入があること
- (小規模個人再生のみ)債権者の過半数が弁済案に同意
- (給与所得者再生のみ)過去7年以内に次の認可を受けていないこと
それぞれの条件について、より詳しく説明をしていきます。
住宅ローンを除外した借金総額が5千万円以下であること
「借金総額5千万円以下」というのは、引き直し計算後の借金総額です。
引き直し計算とは、利息制限法の上限金利を超えた貸付金利で借金返済をしていた場合に、払い過ぎた利息分(過払金)と借金残高の相殺を行って、正確な借金総額を算出することです。
2010年より前から借金返済をしていた場合には、過払金といわれる債権者に払い過ぎた利息金がある可能性があります。
その場合、引き直し計算をすることで、正確な借金総額を求めることができます。
将来的に反復継続した収入があること
個人再生は、手続き完了後も3年間(特別な事情がある場合は5年間)、借金返済が続きます。
そのため、個人再生の申立者には安定した収入があることが求められます。
(小規模個人再生のみ)債権者の過半数が弁済案に同意
個人再生手続きでは、借金を大幅に圧縮した弁済案を作成しますが、その弁済案に対して、債権者の同意が過半数以上なければなりません。
また、同意した債権者の借金額が債務者の借金総額全体の半分以上を占めている必要もあります。
(給与所得者再生のみ)過去7年以内に次の認可を受けていないこと
- 給与所得者再生の再生計画認可の決定
- 個人再生手続のハードシップ免責許可の決定
- 破産申立による、免責許可の決定
ハードシップ免責について補足説明をしておきます。
ハードシップ免責とは、個人再生後の返済中に何らかの理由で返済困難となった場合に3/4以上を返済していれば、残りの返済は免除して貰える制度です。
ハードシップ免責は、個人再生をした後の返済途中で、病気で働けなくなったり、失業をしたが再就職が困難な場合などに利用されます。
個人再生による借金減額後の借金残高
個人再生は、住宅ローン特則(後述します)をという制度があります。
住宅ローン特則を利用した場合は、住宅ローンの借金は現状を維持したまま、それ以外の借金だけを減額することになります。
個人再生を行った場合の借金減額後の借金残高を算出するための計算式には、次の3種類があります(住宅ローン特則を利用する場合は、住宅ローンの借金は除外して計算)。
算出方法 | 詳細 |
---|---|
借金額から算出 (A) |
借金総額:100万円未満→減額なし |
借金総額:100万円以上500万円以下→減額後の借金:100万円 | |
借金総額:500万円超1,500万円以下→減額後の借金:借金総額の1/5 | |
借金総額:1,500万円超3,000万円以下→減額後の借金:300万円 | |
借金総額:3,000万円超5,000万円未満→減額後の借金:借金総額の1/10 | |
財産(清算価値)から算出 (B) |
家や土地、自動車など、裁判所が財産と判断したものの価値の総額 |
収入から算出 (C) |
収入から税金や社会保険料、政令で定められた必要最低額の生活費を差し引いた可処分所得の2倍(2年分相当)の金額 |
小規模個人再生の場合は、上記の(A)と(B)を比較して、高い方の金額を原則として3年間で支払うことになります。
一方、給与所得者等再生の場合は、上記の(A)、(B)、(C)の全ての中で、最も高い金額を、原則として3年間で支払います。
小規模個人再生は2つの計算式を比較して高い金額を選択するのに対して、給与所得者等再生は3つの計算式を比較して高い金額を選択するので、一般的には給与所得者等再生より小規模個人再生の方が借金を減額することができます。
住宅ローン特例とは?
住宅ローン特例とは、住宅ローン特則とか住宅資金特別条項とも呼ばれています。
個人再生で住宅ローン特例を受ければ、住宅ローンの返済を従来通りに行うことで、住んでいる家や土地(不動産)を処分せずに済みます。
住宅ローン特例を利用することで、今住んでいる自宅を失わずに、借金の大幅圧縮ができるという事です。
但し、住宅ローン特例を利用するには次の条件を満たしている必要があります。
- 個人再生の申立者本人の住宅(住宅が建っている土地)であること
- 現在、その家に入居していること
- 自宅に住宅ローン以外の抵当権が付いていないこと
- 保証会社による代位弁済後、6カ月を経過していないこと
「自宅に住宅ローン以外の抵当権が付いていないこと」と「保証会社による代位弁済後、6カ月を経過していないこと」は、分かりづらい条件なので補足説明をしていきます。
まず、「自宅に住宅ローン以外の抵当権が付いていないこと」の真逆である「自宅に住宅ローン以外の抵当権が付いている」とはどういった状態なのかについて考えてみます。
「自宅に住宅ローン以外の抵当権が付いている」とは、銀行などから住宅ローン以外の目的で借り入れをしていて、その借入の際に自宅を担保に入れている場合です。
具体例を挙げると、銀行から事業資金の調達のために家を担保としてお金を借りている場合です。
この具体例の場合は「自宅に住宅ローン以外の抵当権が付いていないこと」の条件を満たさないので、住宅ローン特例を利用することができません。
また、「保証会社による代位弁済後、6カ月を経過していないこと」とは、住宅ローンを滞納し続けると保証会社が債務者の借金を代位弁済するのですが、代位弁済から6カ月以上経過をすると住宅ローン特例は利用できなくなるという事です。
通常、代位弁済が行われると債務者は借金の一括返済を求められますが、代位弁済から6カ月が経過していなければ、住宅ローン特則を利用することで、従来通りの分割払いで住宅ローンの返済を行える様になります。
個人再生による借金整理が向いている方
借金を整理するための方法には、個人再生だけでなく任意整理や特定調停、自己破産といった方法もあります。
借金を抱えている方の借金総額や収入、財産、支出、家族構成、保証人の有無などにより、どの借金整理方法を選べば良いかが決まります。
個人再生は、次の様な状況にあてはまる方に向いているので、個人再生を行うことを考えている方は自分の状況と照らし合わせて合致しているかを確認してみましょう。
- 任意整理や特定調停では対応できない様な多額の借金を抱えている方
- 自宅や土地、マイカーなどを処分したくない方
- 自己破産の免責不許可事由や資格制限に該当して、自己破産を利用できない方
上記の各項目について、それぞれ補足説明をしていきます。
任意整理や特定調停では対応できない様な多額の借金を抱えている方
任意整理や特定調停は、債権者に払い過ぎた過払金が無い場合には、借入元本を減額することは非常に困難です。
そのため、過払金が無ければ任意整理や特定調停では、大幅に借金の返済負担を減らすことができません。
一方、個人再生の場合は、借金の元本まで大幅に減らすことができます。
そのため、多額の借金を抱え込んでいて、借入元本を大幅に減額したいという方に個人再生は向いています。
自宅や土地、マイカーなどを処分したくない方
個人再生は住宅ローン特例を利用すれば、住んでいる家や土地などを借金整理の対象から除外することができます。
また、自動車ローンを払い終えたマイカーであれば、個人再生をしてもその車を手放さずに済みます。
(自動車ローンを返済中の場合は、マイカーの所有者は自動車ディラーまたはローン会社になっていることが多いので、その場合は個人再生を行うとマイカーを失う可能性があります。)
自己破産の免責不許可事由や資格制限に該当して、自己破産を利用できない方
自己破産は、借金を作った原因によっては借金の返済免除を受けることができません。
自己破産によって借金返済の免除を受けることができない借金原因のことを、免責不許可事由と言います。
免責不許可事由には、パチンコやパチスロ、競馬などのギャンブルや贅沢による浪費などがあります。
自己破産を行いたいけど、免責不許可事由に該当していて自己破産の適用を受けることができないという方は、自己破産に代わって免責不許可事由のない個人再生を実施するのが適しています。
また、自己破産には、自己破産の手続き中に所定の仕事に就くことができない資格制限があります。
自己破産の資格制限に該当する仕事をしており、自己破産の手続き期間(長くて1年間ほど)、その仕事ができなくなると困るという方は、職業制限のない個人再生を行うと良いです。
個人再生のメリット
ここでは、個人再生を実施することで獲得できるメリットについて、説明をしています。
個人再生を行うと、次の様な利益を得ることができます。
- 債権者からの督促が止まる。
- 債権者への借金返済を一時的にストップできる。
- 任意整理や特定調停と比較すると大幅に借金を減額できる。
- 家などの不動産を売らずに債務整理ができる。
- 自己破産の様な職業制限がない。
其々の項目について、もう少し詳しく説明をしていきます。
債権者からの督促が止まる
個人再生の手続きは、裁判所を利用するため処理が複雑で、一般的には弁護士に手続きを依頼します。
弁護士に個人再生の手続きを依頼すると、即座に弁護士は各債権者(債務者の借入先)に受任通知を送付します。
債権者は、法律によって弁護士から受任通知を受け取ると、原則としてそれ以降は債務者に対して督促ができなくなります。
ですから、取り立てのプレッシャーを受けることなく冷静になって借金の整理に取り組むことができます。
債権者への借金返済を一時的にストップできる
個人再生の手続き中は、裁判所に再生計画案を提出して、借金の返済額と返済方法を確定させるための作業を行います。
そのため、個人再生の手続き中は借金の返済額と返済方法が確定をしていないので、債務者は債権者への借金返済を停止することができます。
個人再生中に停止した借金返済のお金は、個人再生手続きの費用に充てたり、個人再生後に返済を再開した時の資金源として利用することができます。
なお、個人再生の申立てをした地方裁判所によっては履行テストが行われます。
履行テストとは、個人再生後に借金返済を継続して行えるかのテストで、約半年間ほど再生計画案で提示した毎月の返済額と同額の返済を裁判所に対して行います。
履行テストがある場合は、個人再生中も借金返済と同等の支払いが発生することになります。
ただし、履行テストで裁判所に支払ったお金は、原則として個人再生の手続きが完了した際に個人再生の申立者に返還されます。
(東京地方裁判所などの一部の裁判所では、履行テストで払ったお金は分割予納金(裁判所費用)として利用されて、個人再生の手続き完了時に裁判所費用を差し引いた残金が個人再生の申立者に返還されます。)
任意整理や特定調停と比較すると大幅に借金を減額できる
任意整理や特定調停は、過払金がなければ、今後の利息カットぐらいしか借金の減額をすることができません。
一方、個人再生は借金の元金自体を大幅に減らすことができます。
個人再生を行えば、月々の返済負担を大幅に軽減できるので、借金返済による生活苦から抜け出すことができます。
家などの不動産を売らずに債務整理ができる
住宅ローン特例を利用すれば、住んでいる家や住んでいる土地を失わずに済みます。
また、その他の不動産は、購入ローンの返済中でなく、また抵当権の設定も行っていないのであれば、個人再生を行ったとしても失うことがありません。
自己破産をした場合は、生活必需品を除いた20万円以上の財産は失ってしまいますが、個人再生では不動産などの財産を失わずに借金整理ができます。
自己破産の様な職業制限がない
自己破産の場合は、手続きを行っている最中に、士業や警備員、保険外交員になれないという職業制限があります。
一方、個人再生の場合は職業制限がないので、どの職業の方でも気に掛けることなく個人再生の手続きを行うことができます。
個人再生のデメリット
個人再生は、借金を最大で1/10まで大幅に圧縮できる非常に効果的な借金の整理方法です。
ですが、個人再生にはメリットだけでなく少なからずデメリットもあるので、デメリットについても十分に知識を得ておく必要があります。
ここでは、個人再生をする場合のデメリットについて解説をしています。
個人再生のデメリットには、次の内容があります。
- 借金の額によっては利用できない。
- 手続きが複雑なので、弁護士に依頼する必要がある。
- 安定収入が必要。
- 借金が5年間から10年間できなくなる。
- 全ての債権者が借金整理の対象となる。
- 官報に公告される。
- 裁判所によっては履行テストがある。
- 保証人が取立てを受ける。
各内容について、理解しやすいように詳しく説明を行います。
借金の額によっては利用できない
個人再生は、引き直し計算をした後の住宅ローンを除いた借金総額が5千万円以上ある場合は利用できないという決まりがあります。
また、決まりはありませんが借金総額が100万円以下の場合は、個人再生を行っても借金の減額はゼロなので、個人再生を利用するメリットはありません。
つまり、借金が巨額な場合や、その真逆で極端に借金が少ない場合は個人再生は利用できない(利用するメリットがない)という事です。
手続きが複雑なので、弁護士に依頼する必要がある
個人再生は、裁判所を利用して各債権者の債権の調整を行う手続きです。
そのために、債務整理の素人である債務者が個人再生の手続きを一人で進めるには無理があります。
個人再生は、裁判所に提出する資料の作成や裁判所とのやり取りが複雑なので、必ず債務整理を得意とした弁護士に処理を依頼する必要があります。
安定収入が必要
個人再生は、手続き完了後に再生計画に基づいて借金返済をする必要があります。
再生計画の返済期間は、通常は3年間、長い場合は5年間もあります。
このため、個人再生によって借金を圧縮した後の金額をしっかりと払っていけるだけの収入が無くてはなりません。
もし、安定した継続収入が無いのであれば、個人再生の手続きを行うことはできません。
借金が5年間から10年間できなくなる
個人再生を含めて債務整理の手続きを行うと、信用情報機関に金融事故という情報が記録されます。
個人再生の場合は、信用情報機関の金融事故の情報は5年間から10年間ほど維持をされた後に、自動で消去されます。
信用情報機関に金融事故の情報が保持されている間は、いわゆる金融機関のブラックリストに載っている状態となるので、金融機関から借り入れをすることができなくなります。
もっと分かり易く言えば、クレジットカードを利用していた場合には、そのクレジットカードは強制的に解約されて、その後、新規でクレジットカードを作ることができなくなります。
また、携帯電話の割賦払いや自動車ローン、銀行カードローン、住宅ローンなども利用できなくなります。
全ての債権者が借金整理の対象となる
債務整理方法として任意整理や特定調停を選べば、借金を整理する債権者を選ぶことができます。
ですが、個人再生の場合は、銀行、キャッシング会社、クレジットカード会社、身内や知人などの全ての債権者が債権の種類、借入時期などに関わりなく、今現在借金が残っていれば借金整理の対象になります。
個人再生の場合は、全ての債権者が借金整理の対象となって、債権の金額によって比例配当を受けることになります。
(但し、住宅ローン特例を利用している場合は、住宅ローンの借入先は借金整理の対象から除外されます。)
このため、個人再生を利用すると、自動車ローンを返済中のクルマがある場合はローンで購入したクルマを失う可能性があります。
また、個人再生によって保証人を設定した借金が整理された場合には、保証人が個人再生の申立者に代わり、債権者から取立てを受ける可能性があります。
官報に公告される
個人再生を行うと、開始決定、書面決議、認可決定の合計3回、官報に申立者の住所や氏名が掲載されます。
官報とは、国が発行をする情報誌の様なもので、所定期間は無料で、その後は有料で誰にでも閲覧可能なものです。
官報に住所や氏名が載ってしまうと、借金を整理したことが、近所の人や職場にバレてしまうのではと危惧する方もおられると思います。
ですが、官報を毎日チェックするという方は、まずいないので、個人再生を行った結果、官報に掲載をされたとしても周囲の人にバレてしまうことはまずありません。
そのため、官報に公告されることはデメリットですが実害はないです。
裁判所によっては履行テストがある
個人再生は、申立者の居住地を管轄している地方裁判所に申立てを行います。
地方裁判所によっては、履行テストが行われます。
履行テストが行われると裁判所に対して、毎月、お金の積立をしなければならないので、そのお金を工面することを考えなくてはならなくなります。
保証人が取立てを受ける
個人再生を行った場合、借金の中に保証人を立てたものがあれば、保証人が債権者から借金の一括返済を求められます。
個人再生で借金の減額ができるのは申立者本人のみで、保証人の保証債務は減額されません。
保証人を設定した借金を抱えている場合は、個人再生をする前に保証人と十分に話し合いをして、保証人の理解を得ておかないと後々トラブルになってしまいます。
なお、個人再生で住宅ローン特例を利用している場合は、住宅ローンは借金の整理対象外なので、住宅ローンの保証人が取り立てを受けることはありません。
個人再生による解決事例
ここでは、個人再生を実際に行った方々の事例を3つ紹介しています。
事例を見て頂ければ分かりますが、皆さん個人再生をすることで借金の大幅減額に成功しています。
事例1
職業 | 会社員 |
年齢・性別 | 46歳(男性) |
個人再生前の借金額 | 420万円(住宅ローンを除く) |
個人再生後の借金額 | 100万円(住宅ローンを除く) |
借金をした理由 | 住宅ローンの返済の為に、消費者金融から借り入れをしたため |
コメント | 住宅ローン特則の適用を受けることで、自宅を処分することなく債務整理をすることができました。 |
事例2
職業 | OL |
年齢・性別 | 32歳(女性) |
個人再生前の借金額 | 240万円 |
個人再生後の借金額 | 100万円 |
借金をした理由 | 浪費癖でリボ払いのクレジットカードを乱用 |
コメント | 職場の人に知られたらどうしようかと思っていたけど、会社の上司や同僚などには全く知られずに借金整理ができました。 |
事例3
職業 | 自営業 |
年齢・性別 | 36歳(男性) |
個人再生前の借金額 | 470万円 |
個人再生後の借金額 | 100万円 |
借金をした理由 | サラ金で借金をしてまで仮想通貨取引を行ったため |
コメント | 金銭欲に目がくらんでしまって多額の借金を作ってしまいましたが、破綻せずに何とか再スタートを切れそうです。 |
個人再生手続きの流れ
個人再生は、申立てを受けた地方裁判所によって手続きの進め方に差があります。
地方裁判所による差とは、次の内容です。
- 個人再生委員の選任の有無
- 個人再生委員の選任がある場合は、面接の有無
- 返済トレーニングである履行テストの有無
個人再生を考えている場合は地元の弁護士に借金相談をする時に、上記項目の実施の有無を確認すると良いでしょう。
なお、履行テストがある場合は、履行テスト中にその返済が滞った場合には、裁判所で個人再生の再生計画の認可を認めて貰えなくなるので注意する必要があります。
個人再生の手続き期間は、申し立てから再生計画の認可の確定まで、およそ6~7カ月ほど掛かります。
手続きを終えるまで半年程度は掛かるという事を念頭に置いて、個人再生手続きに取り掛かると良いです。
ここでは、代表例として東京地方裁判所に個人再生の申立てをした場合の手続きの流れについて説明をします。
上記の各工程の詳細について、説明をしていきます。
(1)弁護士と借金相談
借金返済が辛いと思ったなら、早い段階で借金問題を扱っている弁護士などに借金相談をすることが大切です。
借金相談を躊躇していると貸付金利により、借金総額は徐々に増えてしまい、状況は益々悪化することになります。
なお、借金相談に関しては、初めての相談は無料としている法律事務所が多いので、そういった無料相談を実施している法律事務所を利用すると良いです。
(2)相談の結果、弁護士から個人再生の提案
弁護士は、あなたの意向、借金状況や収支、家庭環境などを踏まえた上で、あなたの借金事情に合った債務整理方法を提案します。
債務整理方法には様々な方法がありますが、家を守りつつ、多額の借金を減らしたい場合には、個人再生を提案される場合が多いです。
(3)提案内容に満足できたら、弁護士に個人再生手続きを依頼
弁護士の提案に納得出来たら、個人整理の手続きを依頼します。
もし、提案内容に納得ができなかった場合には、別の法律事務所で無料相談を受けてみると良いです。
どの法律事務所に借金の整理を依頼するかは、複数の法律事務所を比較して、自分が十分に納得した上で決めるべきです。
(4)弁護士は各債権者に受任通知を送付
個人再生の依頼を受けた弁護士は、債権者である貸金業者に受任通知を送ります。
受任通知を送ることで、債権者からの取り立て行為がストップします。
また、借金返済も個人再生の手続き期間中は一時的にストップすることができます。
(5)弁護士は各債権者に取引履歴の開示を請求
債務者が抱えている各債権者の借金額を確定するための資料として、弁護士は、各債権者に取引履歴の開示を依頼して、取引履歴を入手します。
(6)引き直し計算を行い借金の金額を確定
2010年の改正貸金業法が施行される前までは、ほとんどの貸金業者がグレーゾーン金利という過払金が発生する貸付金利で債務者に融資を行っていました。
引き直し計算では、各貸金業者ごとに払い過ぎた過払金がある場合はその過払金を借金残高から差し引いて、正しい借金額の確定を行います。
(7)個人再生申立て書類を作成
弁護士が債務者に代わって、裁判所に提出する個人再生申立ての書類を作成します。
個人再生申立ての書類を作成する為の資料として、債務者は弁護士へ財産や収入、支出に関する次の資料などを提出します。
- 収入証明(給与明細書や源泉徴収票、確定申告書の控え)
- 家計簿
- 通帳
- 不動産登記簿謄本
- 財産の査定書
- 保険証券
(8)裁判所へ個人再生の申立て
個人再生の申立てを行った裁判所で、書類等に不備が無く申立て基準を満たしていることが認められれば、いよいよ個人再生が始まります。
個人再生の申立て直後に、裁判所で個人再生手続きをサポートする個人再生委員が選任されます。
(9)裁判所で選任された個人再生委員と再生計画について話し合い
個人再生の申立てから2~3週間後に申立人と弁護士は裁判所へ出向いて、借金の理由や内訳、返済の見通しなどを個人再生委員に説明します。
(10)再生手続の開始決定
個人再生の申立てから約1か月後に、裁判所で再生手続の開始が決定されます。
東京地方裁判所では、再生手続の開始決定後に、借金返済を継続して行えるかのテストである「履行テスト」を開始します。
履行テストでは、毎月1回、6カ月間、個人再生後に毎月債権者へ支払う金額と同じ額を裁判所の指定口座に振り込みます。
(11)各債権者は裁判所へ債権届出
裁判所は、各債権者から債権の届け出を受けることで、債権者が主張する借金の金額確認を行います。
(12)債務者は裁判所へ債権認否一覧表を提出
債務者は、各債権者が主張する借金の金額の認否を行って裁判所に提出します。
債務者が債権について異議を申し立てた場合は、個人再生委員によって債権額の評価が行われて、裁判所が債権額を確定する再生債権評価手続きが行われます。
(13)債務者は、再生計画案を裁判所に提出
債務者は、「再生計画案」と共に「個人再生するに至った借金理由をまとめた報告書」と「財産目録」もあわせて裁判所へ提出します。
(14)再生計画の認可決定・不認可決定
債権者に再生計画案を認めるかを確認するための手続きとして、再生計画案の審議を行います。
小規模個人再生では、書面による決議が行われて「債権者の数の1/2以上の反対がない」かつ「反対した債権者の債権額の合計が全債権額の1/2分を超えていない」ことが必要です。
給与所得者等再生では、債権者の意見聴取が行われます。
「書面による決議(小規模個人再生の場合)」や「債権者の意見聴取(給与所得者等再生の場合)」、そして「履行テストの結果」を踏まえて、裁判所は再生計画の認可決定もしくは不認可決定を行います。
(15)再生計画の認可・不認可の確定
再生計画の認可決定・不認可決定からおよそ1か月後に、裁判所によって再生計画の認可・不認可の確定が行われます。
(16)再生計画の内容で借金返済を開始
再生計画の認可が確定した月の翌月から、債務者は債権者へ再生計画の内容で弁済を開始します。
個人再生委員の役割
個人再生委員は個人再生の申立てがあった後に、申立てのあった地方裁判所で選任されます。
(※地方裁判所によっては、個人再生委員の選任が行われない場合があります。)
個人再生委員の役割は、裁判所を補助することにあります。
具体的な個人再生委員の仕事には「申立者の収支や財産、借金状況の調査」、「再生計画案の作成サポート」、「履行テストの実施」などがあります。
個人再生の費用
個人再生を考えている人の懸念事項の一つが、個人再生に掛かる費用だと思います。
個人再生に掛かる費用は大まかに分けると、弁護士費用と裁判所費用があります。
弁護士費用は法律事務所、そして裁判所費用は申立てを受けた地方裁判所によって掛かる費用にばらつきがあります。
そのためここでは、おおよその目安について紹介をしています。
個人再生に掛かる弁護士費用と裁判所費用は、次のようになります。
費用 | 費用の内訳 | 料金 |
---|---|---|
弁護士費用 | 相談料 | 多くの場合、初回30分は無料 |
着手金 | 30万円から60万円程度 | |
成功報酬 | 10万円から15万円程度 | |
裁判所費用 | 収入印紙代 | 1万円程度 |
郵便切手代 | 2千円から8千円程度 | |
再生委員への報酬 | 15万円から25万円程度 | |
官報公告費用 | 1万3千円程度 |
なお、個人再生の手続きは弁護士だけでなく司法書士に依頼することも可能です。
一般的には、個人再生の手続きは司法書士に依頼した方が法律の専門家に支払う部分の費用を安く済ませることができます。
ですが、司法書士に依頼をした場合は司法書士は地方裁判所で債務者の代理人になれないなどの業務上の制約が発生します。
このため、司法書士に依頼をすると、債務者本人が行わなければならない作業が多くなります。
ですから、個人再生は特段の理由がない限りは司法書士ではなく弁護士に仕事を依頼をした方が無難です。
まとめ
個人再生は、家を失うことなく借金を大幅に減らすことができる強力な債務整理方法です。
個人再生だと住まいを失うことが無いので、債務整理後に生活環境ががらりと変わってしまうこともありません。
ですから、住宅ローンを除いた借金総額が5千万円以下で、かつ返済不能になりそうな方は、ぜひとも個人再生の利用を考えて欲しいです。
また、自己破産は絶対に避けたい、もしくは自己破産の免責不許可事由や職業制限のために自己破産は利用できないといった方も、個人再生が利用できないかを検討すると良いでしょう。