特定調停は裁判所を利用した手続きで、平成12年2月から施行された比較的新しい借金の整理方法です。
債務整理にはどのようなメリット・デメリットがあるのか、また手続きの流れなどについても見てみましょう。
特定調停の特徴
特定調停は簡易裁判所を通し、債権者と債務者が今後の借金返済について交渉をしていく債務整理方法です。
1名の裁判官と2名の弁護士資格を持つ民間の調停委員によって構成される調停委員会が、特定調停手続きの進行を行います。
借金の減額に関する基本的な内容は、任意整理と一緒です。
引き直し計算を行い、債権者に対して払い過ぎた利息金(過払金と言います)がある場合は、払い過ぎた利息分と元金を相殺して、借金の減額を実現します。
また、交渉によって合意すれば、将来の利息カットや遅延損害金の支払い免除などを受けることが可能です。
特定調停後の借金返済は、原則として3年以内に返済する計画を立てますが、最長5年までは延ばすことができます。
特定調停の利用が適している方とは
債務整理の方法には、特定調停の他に自己破産や任意整理、個人再生といった方法があります。
それぞれの債務整理方法には特徴があり、借金問題を解決するためには個々の債務者の借金総額や収入、財産などの状況を考慮した上で、ベストといえる債務整理方法を選ぶ必要があります。
ここでは、どの様な方が特定調停を選ぶべきなのかについて説明をしています。
特定調停に向いている方は、次の様な方です。
- リーズナブルな費用で債務整理をしたい方
- 特定調停で減額した借金を、3年間程度(最長5年間)で完済できる方
リーズナブルな費用で債務整理をしたい方
特定調停は、若干手間は掛かりますが、弁護士などの法律の専門家に仕事を依頼せずとも、自分だけで出来る債務整理方法です。
自分だけで特定調停の手続きを行えば、弁護士などへの報酬費用が発生をしないので、安価な料金で債務整理をすることができます。
特定調停で減額した借金を、3年間程度(最長5年間)で完済できる方
特定調停によって減らした借金は、通常は3年以内、長くても5年以内の分割払いで完済を目指します。
そのため、債務者は継続的な安定収入がなければなりません。
特定調停のメリット
特定調停の利用には、とても多くのメリットがあります。
ここでは、特定調停のメリットについて解説をしています。
具体的な特定調停のメリットには次の内容があります。
- 月々の返済負担を軽減できる。
- 個人だけでなく、法人も利用できる。
- 借金をした原因は問われない。
- 弁護士などの専門家に依頼しなくても良い。
- 費用が安上がりである。
- 返済不能の恐れがあれば利用できる。
- 比較的に手続きが簡単である。
- 短期間で手続きが完了する。
- 債権者からの取り立てが止まる。
- 手続き期間中は借金返済を停止できる。
- 手続きを利用する債権者を選べる。
上記のリストアップした内容について、分かりやすい様に補足説明をしていきます。
月々の返済負担を軽減できる
特定調停は、調停委員会による債権者と債務者の利害調整により、利息や遅延損害金のカット、返済期間の長期化(分割払いの回数増加)を実現できることが多いです。
また、過払金があれば利息制限法の上限金利で利息額を再計算する「引き直し計算」を行い、過払金と借金元本の相殺を行うことで、借金の減額を実現します。
つまり、月々の返済負担を軽くすることができ、無理なく完済まで返済を続けれる様になります。
個人だけでなく、法人も利用できる
特定調停は、個人はもとより、法人でも利用をすることができます。
事業経営に失敗して破綻状態にある法人も、特定調停を利用することで借金の整理をすることができます。
借金をした原因は問われない
自己破産の場合は、借金を作った原因が「浪費癖」や「パチンコや競馬などのギャンブル」、「仮想通貨や商品先物取引、株式取引などの投機」の場合には、免責不許可事由に該当するため、借金が免除されないことがあります。
ですが、特定調停の場合は、借金を作った理由に制限されることなく利用をすることができます。
弁護士などの専門家に依頼しなくても良い
一般的に債務整理を行う場合は、弁護士などの専門家に処理を依頼することになります。
ですが、特定調停に関して言えば、弁護士などの専門家に処理を依頼することなく債務者本人だけで特定調停の手続きを進めることができます。
特定調停の申し立て手続きは、裁判所にひな型が用意されており、また書記官に書類の書き方や不明点などを尋ねることができます。
特定調停の手続きが開始された時には、裁判官と弁護士資格をもつ調停委員によって構成される調停委員会が主導して、事件解決を試みます。
つまり、弁護士資格を持つ調停委員が仲介者となって、債権者と債務者の話しを取りまとめるのです。
そのため、債務者は、特定調停の手続きの為に弁護士を雇う必要がありません。
費用が安上がりである
上述したように特定調停の手続きでは、債務者は弁護士などの法律の専門家を雇う必要がありません。
特定調停の費用として必要になるのは裁判所費用だけで、専門家に支払う報酬費用は不要となります。
そのため、特定調停は他の債務整理方法と比較すると安価な料金で債務整理を実現することができます。
返済不能の恐れがあれば利用できる
特定調停の利用条件は「返済不能の恐れ」があれば利用可能で、現に「返済不能な状態」となっていなくても利用することができます。
つまり、借金状況が悪化して返済不能となる前段階から利用できるので、特定調停を利用すれば早い段階から借金問題の解決に取り組むことができます。
比較的に手続きが簡単である
特定調停は裁判所を通すため面倒だと思われがちですが、比較的に手続きは簡単です。
そのため、法律や裁判所手続きの素人である債務者本人だけでも特定調停の手続きを行うことができます。
短期間で手続きが完了する
特定調停は、裁判所に申立てを行ってから手続きが完了するまで2カ月程度しか掛かりません。
個人再生や自己破産などの他の債務整理方法と比較すると、短期間で借金問題を解決できます。
債権者からの取り立てが止まる
債務者が裁判所に特定調停の申し立てを行い、その申し立てが受理された段階で、裁判所から各債権者に特定調停の申し立てが行われた事実が通知されます。
各債権者は、特定調停の手続きが開始された事実を知った時から、貸金業法の第21条「取立行為の規制」によって、債務者に対して取り立て行為ができなくなります。
つまり、債務者は取り立ての重圧を受けることなく、特定調停の手続きに専念をすることができます。
手続き期間中は借金返済を停止できる
特定調停の手続きを行っている間は、今後の借金返済の条件を調整している状態です。
このため、債務者は特定調停の手続き中は債権者への借金返済を一時的にストップすることができます。
一時的にお金を貯めることができるので、特定調停後の借金返済が楽になります。
手続きを利用する債権者を選べる
多重債務状態で債権者が複数ある場合は、どの債権者に対して特定調停を利用するかを自由に選ぶことができます。
例えば、「住宅ローンや自動車ローンは特定調停による整理対象から外して、家やクルマは現状を維持する」、「保証人を立てた借金がある場合は、保証人に迷惑が掛からない様にその借金は特定調停による整理対象から外す」といったことができます。
特定調停のデメリット
特定調停を行うと多くのメリットを受けることができることを、既に述べました。
ですが、実は特定調停にはデメリットも多くあります。
特定調停には次の様なデメリットがあるので、デメリットについてもしっかりと把握しておくようにしましょう。
- 大幅な借金の減額は厳しい。
- 高所得者だと利用できない。
- 資料を作成して裁判所に提出する必要がある。
- 各裁判所ごとに調停基準にばらつきがある。
- 債務者自ら裁判所に出廷する必要がある。
- 無駄な出費を切り詰める様に要求される。
- 調停が不成立に終わる場合がある。
- 新たな借入は困難となる。
- 過払金がある場合は、別途、過払金返還請求が必要となる。
- 差押えが容易になる。
大幅な借金の減額は厳しい
特定調停を利用できるかの目安は、過払金がある場合には引き直し計算を行い、その上で今後の利息を無しとした場合に5年以内に借金を完済できるかです。
あまりにも多額の借金を抱えていて、5年間、合計60回の分割払いでも完済できないのなら、特定調停ではなく別の債務整理方法を選択するべきです。
高所得者だと利用できない
特定調停の申し立てを裁判所に認めて貰うためには、申立者が「借金返済に困っている特定債務者」だという認定を受ける必要があります。
高所得だけど浪費による支出が激しく、その為に借金返済ができないといった方は、特定債務者とは認めて貰えないので特定調停を利用することができません。
資料を作成して裁判所に提出する必要がある
特定調停の手続きを弁護士に依頼せずに、自分ひとりで行う方は、当然のことですが裁判所に提出する書類は自分で作成する必要があります。
特定調停の申立書の他に、債権者の一覧表、収入や財産状況の書類などを作成しなければなりません。
提出書類の作成は難しくありませんが、手間が掛かります。
各裁判所ごとに調停基準にばらつきがある
特定調停で和解を図る基準は、統一されておらず各裁判所ごとに異なっています。
つまり、裁判所ごとに債権者と債務者の利害調整の落としどころが異なるという事です。
一応、特定調停では、公正かつ妥当で経済的に合理的な結果を目指すことになってはいます。
ですが、その結果が必ずしも債務者にとって有利な条件で和解できるとは限りません。
債務者自ら裁判所に出廷する必要がある
特定調停の手続きを弁護士(司法書士)に依頼しなかった場合には、債務者が自ら裁判所に出なければなりません。
特定調停の手続きでは、平日の日中に簡易裁判所に2回程度、出廷することになります。
仕事を持たれている方は、仕事を休んで出廷するための時間を確保する必要があります。
無駄な出費を切り詰める様に要求される
不必要な保険に加入をしていたり、家賃の高い賃貸に住んでいるなど、無駄な出費があると判断をされた場合には、まずは無駄な出費を切り詰めて返済資金を捻出するように言われます。
つまり、特定調停では、申立人の家計に口出しをされる場合があり、家計の改善を求められることがあります。
調停が不成立に終わる場合がある
特定調停は、債権者の同意を得られなければ成立しない手続きです。
債権者の中には、非協力的な貸金業者も存在します。
非協力的な貸金業者の場合は、「取引履歴の開示を渋る」、「利息のカットに応じない」、「延滞した時に発生する遅延損害金のカットに応じない」といったことが起こります。
特定調停が不調に終わった場合には、遅延損害金が増えてしまい、借金状況が悪化して手続きが終了することもあります。
新たな借入は困難となる
特定調停の手続きを行うと、信用情報機関に金融事故の情報が記録されます。
この金融事故情報は、記録されてから5年程度で自動で消去されます。
銀行やクレジットカード会社、信販会社などで、借入の申し出をしたり、融資用のカードを作成する際には、必ず融資審査が行われます。
融資審査では、信用情報機関に個人情報の照会を行います。
個人情報の照会の結果、金融事故が明らかになった場合には、融資審査は通過しません。
つまり、特定調停を行うと金融機関で利用されているブラックリストに載ることになってしまい、金融機関から5年間ほどお金を借りることができなくなります。
特定調停を行うと、現在、クレジットカードを利用しているのなら、そのカードは解約となります。
また、新規でオートローンやマイホームローンを利用することができなくなります。
過払金がある場合は、別途、過払金返還請求が必要となる
過払金がある場合に、特定調停の手続きによって行うことができることは、借入元本との相殺までです。
もし、多額の過払金があって、借入元本と相殺をして借金がゼロになるだけでなく、さらにお金を取り戻すことができる場合には特定調停とは別に過払金返還請求を行う必要があります。
過払金返還請求は、債務者本人だけでも手続きを行うことは可能ですが、任意の交渉なので、債権者が交渉に応じてくれない場合があります。
その場合は、過払金返還請求を扱っている弁護士または司法書士に、過払金の回収処理を依頼しなければならなくなります。
差押えが容易になる
特定調停では、債権者と債務者の間で合意が成立した場合には、調停調書を作成します。
調停調書には、裁判の確定判決と同等の強力な法的効力があります。
調書で合意した返済が滞った場合には、債権者は裁判なしで債務者の財産の差押えができます。
そのため、調書で合意した返済条件は絶対に守らなければならないというプレッシャーを負うことになります。
特定調停の手続きの流れ
ここでは、特定調停を行う場合の手続きの流れについて解説をしています。
通常は、特定調停は弁護士などの代理人を立てずに債務者本人が行う手続きです。
そのため、手続きの流れについて十分に理解しておく必要があります。
各手続きの内容について、分かりやすい様に補足説明をしていきます。
弁護士あるいは司法書士と借金相談
借金返済に困ったら、まずは借金問題の解決を得意としている弁護士、または司法書士に借金相談をする所からスタートしましょう。
弁護士と相談をする時は法律事務所、司法書士と相談をする時は司法書士事務所を利用します。
相談料が気になる方が多いと思いますが、最近は初回の30分間は無料相談としている所が多いです。
事前に資料を用意した上で相談を受ければ、30分間あれば十分に解決の方向性を提案してもらうことができます。
弁護士などの専門家に相談せずに、いきなり自分の判断だけで特定調停と決めてしまうと、実は他の債務整理方法で借金問題を解決をした方が良かったといったことが起こり得ます。
自分の判断だけで特定調停の手続きを行うと、調停が不成立となったり、調停が成立した場合でも返済が滞ってしまい、再度、別の債務整理手続きをしなければならないという事も起こり得ます。
相談の結果、特定調停に決定
弁護士または司法書士と借金相談をした結果、特定調停をするのが良いという話になった場合には、あなただけで手続きを進めるか、弁護士(司法書士)に特定調停の手続きを依頼するかを決めましょう。
代理人を立てる場合は、弁護士(司法書士)に特定調停の手続きを依頼
特定調停は、債務者だけでも手続きを進めることができますが、平日に裁判所に出廷する必要があり、時間的な拘束を受けます。
ですので、もし仕事をしていて平日は休みが取れないという方は、弁護士または司法書士に特定調停の手続きを依頼すると良いです。
特定調停の申立書の作成
裁判所に提出する書類として、特定調停申立書や債権者一覧表、収入や財産の状況といった必要書類を用意します。
簡易裁判所に特定調停の申し立て
特定調停の申し立ては、原則として債権者の所在地を管轄する簡易裁判所へ行います。
なお、多くの場合では、債務者の所在地を管轄している簡易裁判所に申し込むことも出来ます。
地元を管轄している簡易裁判所を利用したい方は、地元の簡易裁判所に相談をすると良いです。
特定調停の申し立てが受理されると、事件受付票が交付され、かつ事情聴取期日が指定されます。
また、特定調停の申し立てを受理した簡易裁判所では、債権者と債務者の利害調整を図る調停委員の選任が行われます。
裁判所は債権者へ取引履歴の開示請求
簡易裁判所は、各債権者へ引き直し計算書の提出を要求して、各債権者が保有する債権額の確認を行います。
事情聴取期日(申立者は裁判所に出向く)
特定調停の申し立てを行ってから約1か月後に、簡易裁判所で事情聴取が行われます。
調停委員会は、債務者から事情聴取をして借金状況や返済能力を確認します。
債務者の状況を把握した上で、弁済案を作成します。
なお、返済の見込みが立たないなど、特定調停がふさわしくないと判断された場合は、ここで特定調停の取り下げ、または事件終了になります。
第1回調停期日(債権者と申立者は裁判所に出向く)
事情聴取期日から約1か月後に、簡易裁判所で第1回調停期日が開かれます。
債権者は出廷せずに、電話で済ますことも多いです。
調停委員会は事情聴取期日で作成した弁済案をもとに、各債権者との間で個別に弁済案の調整を行います。
合意に至れば調停調書を作成
調停委員会と債権者、債務者間で、弁済案の調整を行った結果、最終的に合意することができれば調停調書を作成します。
不成立になれば和解案(弁済案)を作り直して、再度交渉に入ります。
それでも交渉がまとまらない場合は、調停委員会が妥当と言える調停条項を定めて決定する17条決定が行われます。
(なお、17条決定をした場合に債権者から異議がでることが明らかな場合は、17条決定をせずに調停は終了となります。)
17条決定に対して、債権者から異議が出された場合は、特定調停は不成立となります。
特定調停が不成立で終了した場合は、他の債務整理方法を検討する必要があります。
債務者は成立した調停内容に従って、借金返済を継続
債務者は、調停調書が作成された後は、調停調書に記載された返済条件に従って、債権者に対して分割弁済を行います。
特定調停の費用
上述しましたが、弁護士などの法律の専門家と借金相談をする場合でも無料で出来ることが多いです。
ですが、いざ特定調停の手続きを開始するとなった場合には、料金が掛かります。
特定調停をする際に掛かる費用の内訳は、次の様になります。
費用 | 費用の内訳 | 料金 |
---|---|---|
裁判所費用 | 収入印紙代 | 1債権者に付き500円 |
郵便切手代 | 数千円程度 | |
弁護士費用 (司法書士費用) |
着手金 | 1債権者に付き2万円~4万円程度 |
減額報酬 | 減額できた金額の5%~10%程度 (減額報酬は無しの場合も多い) |
|
基本報酬 | 1債権者に付き2万円程度 |
弁護士(司法書士)に特定調停の手続きを依頼しなければ、当然のことながら弁護士費用(司法書士費用)は発生をしません。
債務者自身で特定調停を行えば、掛かる費用は裁判所費用だけなので、1万円も掛からずに債務整理手続きを行うことができます。
まとめ
多額の借金を抱えて返済に困っている方は、金欠なので債務整理をするにしても出来るだけ費用の掛からない方法を選択したいと考えますよね。
その際に、ピッタリな方法が特定調停なのですが、特定調停にはデメリットも多いので、本当にあなたの借金を整理するのに特定調停がふさわしいのかを見極める必要があります。
ですから、費用が安上がりなので特定調停をしたいと考えていても、必ず一度は債務整理に詳しい弁護士または司法書士と借金相談をするべきです。
そうすれば、あなたが抱えている借金を整理するのに特定調停が向いているのか、向いていないのかを教えてもらうことができます。
借金相談をした結果、特定調停が良いとなったら不安を抱えることなく特定調停の手続きに踏み切れます。
また、特定調停以外の他の債務整理方法を提案されたら、提案された内容を吟味した上で良ければ、提案された債務整理方法を実施することができます。
借金問題は、借金が膨らんで状況が悪化する前に早期に解決することが重要なので、返済に悩んでいるのなら早い段階で弁護士または司法書士と相談をする様にしましょう。