配偶者の借金癖が原因で離婚を考える人は結構多いものです。
実際、借金が原因で離婚してしまう夫婦は多いのですが、現在検討中の人は行動に踏み切る前にちょっと冷静になって考えて下さい。
借金がある夫・妻と離婚するときには、ちょっとややこしい問題があるのです。
借金が理由で離婚はできるのか?
まず、配偶者の借金が理由で離婚することができるのかについて解説をします。
法的に認められている離婚方法には3つの方法があります。
その方法とは「協議離婚」、「調停離婚」、「裁判離婚」です。
「協議離婚」とは、最も一般的に利用されている離婚方法で、夫婦で話し合いをして、お互いに合意をした上で離婚をする方法です。
この協議離婚は、例えば妻は離婚をしたいのに、借金を作った夫が離婚はしたくないと頑なに離婚を拒んだら、離婚をすることができない方法です。
「調停離婚」は、家庭裁判所で調停委員が仲裁を行いながら、離婚するための妥協点を模索する離婚方法です。
この調停離婚も協議離婚と同様に、一方が頑なに離婚を拒否した場合には、離婚は成立しません。
「裁判離婚」は、調停離婚で離婚の話しがまとまらない場合に行われる離婚訴訟のことで、家庭裁判所で行われます。
裁判所の判断で行われる離婚なので、夫婦の一方が離婚を拒んでいたとしても離婚することができます。
民法が認めている離婚理由には、次の5つがあります。
- 浮気などの不貞行為
- 働いているのに、旦那が家にお金を入れてくれないといった悪意の遺棄(相互扶助の精神の欠落)
- 失踪などによる3年以上の生死不明
- 重度の精神病で回復の目途がつかない
- 婚姻を継続するのが困難な重大な事由がある
借金を理由とした離婚の場合は、上記の民法が認める離婚理由の中の「婚姻を継続するのが困難な重大な事由がある」ことを裁判官に認めて貰う必要があります。
そのためには裁判官に離婚が妥当だと認めて貰うだけの証拠を集める必要があります。
ただ単に借金があるというだけではダメで、夫が自分だけの満足や利益の為にした借金により、夫婦関係が破綻したことを証明する必要があります。
具体的には、浮気相手や風俗通いの為に借金を繰り返している、借金をしたり生活費をつぎ込んでギャンブルをしている、妻の制止を聞き入れずに借金を繰り返しているといった事実を証明することが求められます。
また、裁判離婚(離婚訴訟)では、離婚を認めて貰うにとどまらず、次の項目についても裁判所から判決を貰うことができます。
- 財産分与
- 未成熟の子供の養育費
- 未成年の子供の親権
- 年金分割
- 慰謝料
「借金が理由で離婚はできるのか?」の回答ですが、夫婦ともに離婚に合意をすれば「協議離婚」または「調停離婚」で離婚ができます。
借金を作った側が離婚を拒否していても、自分の為だけの理由で借金を作ったのであれば、裁判官に「婚姻を継続するのが困難な重大な事由がある」と認めて貰えれる可能性が高いです。
この場合は、「裁判離婚」で借金を理由とした離婚をすることができます。
離婚するときの財産分与
夫婦で築いた財産は、離婚する時に分割しなくてはなりません。
夫が働き、妻が専業主婦であったとしても、一般的には財産分与の分割割合は1/2となります。
その事実を知っている人は多いかと思いますが、その財産がどんなものなのか具体的に考えたことはあるでしょうか。
夫婦が離婚するときに分割する財産は、共有財産です。
共有財産とは婚姻中に夫婦が一緒に築き上げた財産のことを指します。
例えば、結婚して購入した家具なども共有財産に当てはまります。
例え夫婦どちらかの名義であっても、共同生活に必要なものであれば共有財産になるので、結婚後に購入した車や住宅、土地も当てはまります。
また、預貯金、現金、年金、有価証券、保険解約返戻金や退職金にも当てはめることができ、共有財産となります。
但し、結婚中に得た財産でも相続で得た財産は財産分与の対象外となります。
借金の場合は、結婚してから作ったものであれば、夫婦の共有財産(共有債務)になります。
つまり、借金がある夫や妻と別れるときには、借金返済する義務も平等に負わなくてはいけないのです。
結婚してから作った借金でも財産分与の対象にならないケース
借金癖のある人と別れたいのに、財産分与で借金まで分けなくてはならないのでは困りますよね。
でも、婚姻中に作った借金でも財産分与の対象にならないケースもあります。
財産分与の対象にならないのは、自分のためだけにした借金です。
生活費や子供の学費のために借りたお金、住宅ローンや自動車ローンは、夫婦二人で負った借金なので当然のことながら夫婦の共有財産(共有債務)となります。
ですが、結婚前の借金、ギャンブルや一人で飲み歩くために借りたお金、自分の為だけに高額商品をローンで購入、事業で生じた借金などは、共有財産(共有債務)の対象とはなりません。
また、家庭を顧みず趣味に散財して作った借金でも、夫婦のものとは認められないでしょう。
一方的に内緒で作った借金に関しては財産分与する必要がないのです。
ただし、結婚生活の為に二人で負った借金があるのなら、その借金は二人で分けなくてはいけません。
共有財産の分で債務が資産を超えてしまったら二人で借金返済をしていかなくてはいけないのです。
もし住宅ローンを返済中で、どちらかの収入が低くて離婚後、住宅ローンの支払いが難しいというのであれば、家の売却を考える必要があります。
離婚する場合には、一般的には家を売却して住宅ローンの返済に充て、住宅ローンの残った借金部分が共有財産(共有債務)となります。
また、夫婦のどちらか一方が家に住み続ける場合は、住み続ける方へ家を出ていく方が(住宅ローン-家の価値)/2の金額を支払い、家に住み続ける方だけが住宅ローンの返済を継続します。
また、共有債務は相続財産のように放棄することができません。
借金返済が難しければ、自己破産などの債務整理も視野に入れる必要があります。
借金癖がある相手に愛想を尽かして離婚するのはもちろん正当な理由なのですが、共有財産や借金がある場合は慎重に事を進めた方がよいです。
妻が夫の借金の連帯保証人となっていた場合
借金をする場合には、通常は連帯保証人が必要となります。
夫の借金の連帯保証人に妻がなっていた場合、離婚する際に妻は連帯保証人から抜けることができるのでしょうか?
答えは、一般的には離婚をしたとしても連帯保証人から抜けることはできません。
なぜなら、金銭の貸主である債権者からみれば、金銭の借主である債務者の個人的な理由により、連帯保証人を失う正当な理由がないからです。
但し、この場合、債権者に夫婦のいずれかが離婚する事情を話して、債権者が事情を汲み取って連帯保証人を失うことに同意をすれば、妻は連帯保証人から抜けることができます。
金銭を貸した債権者が親族の場合は、連帯保証人を失うことに同意して貰えるかもしれません。
ですが、借入先が金融機関だと連帯保証人を失うと返済が滞った場合に不良債権化する可能性が高まるため、連帯保証人を失うことに同意して貰えることはまずありません。
離婚後の慰謝料や養育費
離婚する原因が相手側にある場合には、離婚の慰謝料を相手側に対して請求をすることができます。
そして、未成熟の子供がいて、親権を自分が得た場合には、相手に対して養育費も請求をすることができます。
但し、離婚の原因が相手の借金なので、相手に支払い能力が無く、慰謝料や養育費を請求しても支払いが滞る可能性が大きいです。
離婚後に慰謝料や養育費の支払いが滞った場合に、民事訴訟を起こさなければ相手側からお金を回収することができず、民事訴訟を諦めた場合には泣き寝入りをする事になります。
民事訴訟を起こすには、費用も手間もかかるので、経済的にも精神的にもストレスとなります。
離婚の公正証書を作成する
離婚の際に公正証書を作成すれば、離婚後に慰謝料や養育費の回収が困難となるのを避けることができます。
離婚する時に、夫婦二人で取り決めしたことを離婚協議書(私的文書)にまとめます。
離婚協議書を基として、公文書である公正証書を作成します。
公正証書は公証人という、公文書を作成するプロが記載を行うので、内容が正確で確実です。
公正証書は公文書なので、財産分与に関する支払額や支払日の記載があれば、離婚の際に夫婦が合意して決めた内容であるとの証拠能力のある文書となります。
また、公正証書には法的な強制力があり、裁判の確定判決と同じ効力があります。
もし、公正証書に書かれている慰謝料や養育費の支払いが滞った場合には、訴訟を起こすことなく強制執行による財産の差し押さえをすることができます。
ですから、仮に相手が慰謝料や養育費の支払いを渋っても、確実に支払わせることができます。
公正証書を作成するには夫婦二人で公証役場に行き、公証人のもとで作成を行います。
但し、公正証書を作成するためには5千円から数万円程度の作成代金が必要となります。
公正証書を作成するにはお金がかかりますが、慰謝料や養育費を請求するための民事訴訟を起こすよりかはずっと安上がりです。
また、公正証書を作成する際には、夫婦そろって平日の午前9時から午後5時までの間に公正役場に出向く必要があります。
仕事をしている場合には、休暇を取るなどをしなければ時間の都合を付けるのが難しいかもしれません。
また、公正証書は公正役場に行った当日に作成が完了するのではなく、およそ2~3週間もかかり、作成には時間がかかることも理解しておく必要があります。
公正証書のメリットまとめ
- 記載内容が正確で確実
- 証拠能力がある
- 法的な強制力がある
公正証書のデメリットまとめ
- 離婚の公正証書の作成には夫婦二人の合意が必要
- 作成にはお金が掛かる
- 作成が完了するまでに時間が掛かる
実は、離婚の際に作成する公正証書に記載できる内容は慰謝料と養育費だけではありません。
夫婦二人の合意があれば、次の項目も公正証書に記載することができます。
離婚の公正証書に記載できる主な項目
- 離婚に合意した事実
- 財産分与
- 年金の分割
- 慰謝料(借金などの一方に非があり離婚する場合)
- 親権(未成年の子供がいる場合)
- 養育費(未成熟の子供がいる場合)
- 親権がない側の子供との面会
- 婚姻費用(別居期間があって、収入のある側から他方の配偶者に金銭的な生活援助がなかった場合)
夫の借金が原因で離婚することになり、夫婦二人合意の上で離婚の公正証書を作成するとします。
この場合は、夫だけが離婚後の慰謝料や養育費などの支払責任が課せられるのではなく、妻側も例えば子供の親権を得たとすれば子供との面会機会などの義務が課されます。
離婚後に借金が残った場合の対応
共有財産(共有債務)を分割して、離婚した後に借金が残った場合、仕事をしていてその収入で返済ができれば問題ありません。
ですが、無収入だったり、返済を継続できるだけの収入を得ていなかった場合には、どうしたらよいのでしょうか?
借金の返済が困難な状況であるのなら、法律の専門家である弁護士または司法書士に借金の整理である債務整理の処理を依頼するべきです。
弁護士・司法書士なら誰でもよいのかと言えばそうではなく、債務整理を多く処理している弁護士・司法書士に依頼をする様にしましょう。
弁護士・司法書士は法律に関する業務を請け負っていますが、その範囲は広く、弁護士・司法書士の中には、債務整理の案件をほとんど扱ったことが無く、苦手としている方もいるからです。
債務整理の種類
借金の整理方法としてよく知られているのは自己破産ですが、債務整理には自己破産の他に任意整理、個人再生、特定調停、過払金返還請求があります。
ここでは、各々の債務整理方法の詳細について解説をします。
債務整理の種類 | 詳細 |
自己破産 |
多額の借金を負い、返済できなくなった債務者が管轄の地方裁判所に弁護士を代理人として自ら破産申し立てを行う方法です。 自己破産の方法には、債務者に換価できる財産がある場合の「同時廃止」と換価できる財産がない場合の「管財事件」があります。 財産がある場合には、裁判所で選任された破産管財人が財産を換価して、各債権者に分配を行います。 残った借金は、裁判所から免責許可の決定を受けることで、借金の返済が免除されます。 但し、慰謝料や養育費、税金などは非免責債務なので、借金の返済義務は残ります。 自己破産をしても債務者は、99万円以下の現金と20万円以下の預貯金、さらに20万円以下の物品と生活必需品は保有することができます。 |
過払金返還請求 |
過払金とは、債権者に余計に払っていた利息金の事です。 過去に利息制限法の法定金利を超えた貸付金利で債権者に利息の支払いをしていた場合には、債権者に対して払い過ぎた利息の返還を求めることができます。 この返還請求の事を過払金返還請求と言います。 債権者が任意の交渉に応じてくれない場合は、裁判所を使って訴訟を起こして、法的な強制力によって過払金を回収することもあります。 過払金返還請求の権利には時効があり、時効までの期間は借金の完済をしてから10年までです。 時効が迫っている場合には早急に手続きが必要となります。 |
任意整理 |
貸金業者などの債権者と直接、月々の返済額を減らすための和解交渉をする手続きです。 裁判所を利用しない手続きなので、あまり時間を掛けずに手続きが完了します。 利息制限法の法定利率で借金総額の再計算を行う引き直し計算を行った後、今後の利息の免除や分割払いの回数増加などを求めます。 任意交渉なので、複数の借入先がある場合は、選んだ一部の債権者とだけ借金整理の交渉をすることができます。 |
個人再生 |
利用条件は「将来的に反復継続した収入があって安定した弁済ができる」こと、「利息制限法の法定利率で引き直し計算をした後の借金総額が5千万円以下であること」です。 住宅ローン特例の適用を受けることで家などの不動産を処分せずに済みます。 住宅ローンを除外した借金を1/5に圧縮した再生計画案を管轄の地方裁判所に提出して、この計画案を認めて貰い、この計画に従い3年間の分割払いを行います。 |
特定調停 |
簡易裁判所で行う手続きです。 裁判所で選出された調停委員が債務者と債権者から事情を聴いて、利害関係調整の仲裁を行い、和解の成立を目指します。 和解した場合は、合意内容に基づいて調書を作成します。 調書の記載内容には、裁判所の確定判決と同じ効果があるので、記載内容通りに返済を行わなかった場合には、債権者は訴訟手続きなしに債務者の財産の差し押さえが可能となります。 |
債務整理は、借金を減額あるいは免除することができるので、とてもメリットの大きな手続きです。
ですが、債務整理には一つ大きなデメリットがあることも知っておきましょう。
そのデメリットとは、債務整理をすると個人信用情報機関に金融事故を起こしたことが登録されて、その登録内容は5年から10年は保存されるという事です。
債務整理をすると、いわゆる金融機関のブラックリストに載ってしまうという事です。
銀行や信販会社、消費者金融などの金融機関がお金を貸し出す際には、必ず審査が行われます。
この審査の時に金融機関は、借入を申し込んだ人の情報を個人信用情報機関に問い合わせをします。
もし金融事故情報が記録されていた場合には、審査は不合格となり、借入をすることはできません。
つまり、債務整理をするとその後、約5年~10年の間は、クレジットカードやローンの申し込みができなくなるということです。
なお、例外として、既に借金を完済した過払金返還請求の場合は、個人信用情報機関に金融事故情報は記録されないので、過払金返還請求の手続き後にすぐに金融機関から借り入れをすることができます。
債務整理をする為の弁護士・司法書士の探し方
債務整理をする際には、法律事務所あるいは司法書士事務所に仕事を依頼することになりますが、その探し方について紹介をします。
最近では、法律事務所・司法書士事務所ともに借金相談を相談料なしで行うところが増えてきたので、相談料の掛からないところに相談をしてみると良いでしょう。
パソコン若しくはスマートフォンのブラウザソフト(WEBサイトを閲覧するソフト)を起動します。
YahooまたはGoogleのサイトに行き、YahooまたはGoogleの検索窓に「弁護士 債務整理 地域名」、あるいは「司法書士 債務整理 地域名」と入力をします。
地域名の部分にはあなたが住んでいる市名を入れます。
例えば、八王子市に住んでいるなら「弁護士 債務整理 八王子市」と入力して検索を行います。
すると、WEBサイトのリストが出てくるので、リストの上から順番に閲覧して、債務整理の無料相談を行っている法律事務所・司法書士事務所を探しましょう。
時間的に余裕があるのなら、数か所の法律事務所・司法書士事務所で借金の無料相談を受けてみると良いです。
その中で、もっとも感触の良かった弁護士あるいは司法書士に債務整理を処理を依頼しましょう。